AI、ビッグデータ解析、ディープラーニングなど、近年IT業界を賑わせているこれらの言葉。シリコンバレーでは、AI関連の事業に多くの資金が集まり、次々と注目されるスタートアップが登場しています。今回はAIの分野に関して、シリコンバレーではどのようなビジネスが話題となっているのか、人材の動きはどのようになっているかなど、元技術者であり、エンジェル投資家として長年シリコンバレーに関わってきた、ノバテック株式会社の取締役 平強氏に話をお聞きしました。
平氏は「IoTでも自動運転でも、なんでもAIで処理しないといけないことになってくる。資金も多く集まり、AIのエキスパートはどの業界でも非常に需要が高まっている」といいます。
AIによる解析の重要性。そこから生まれる新たなビジネスとは
AIの技術は近年飛躍的に進歩しています。AIという言葉が使われるようになったのは1950年代中頃から。1956年にアメリカの人工知能研究者ジョン・マッカーシーがArtificial Intelligenceという言葉を初めて使っています。初期のAIは、基本となる膨大な知識やルールを与え、そこから最もよい結果となるように推論と探索を繰り返すというものでした。しかし、現在のAIではセンサーやカメラなどから得られる不特定多数が入力した大量のデータのほか、インターネット上に存在する無数のデータを自らが収集。ディープラーニング、ビッグデータ解析、音声認識、画像処理といったさまざまな技術を駆使して解析。人間の能力では見つけることのできないデータの関係性を導きだしたり、データの関係性から結果を予測したりするまでになっています。
平氏は「どれだけデータを集めて、どれだけ解析してそこからビジネスになるような結論を出せるか。データは集まるが、それをどうアナリシスするかというのが問題になってくる」といいます。現在はIoTの技術により、温度や天候などのデータにとどまらず、人や物の動きなど収集するのが難しかったデータも瞬時に大量に集められるようになりました。個々のデータにはあまり大きな意味はありませんが、AIを用いてこの膨大なデータを解析することで価値あるデータに変えることができます。
続々と広がりをみせる、AIビジネスの事例
これに注目した企業が、シリコンバレーで今数多く登場しています。例えば、マーケティングカスタマーサービスのWise.io、テキスト分析のIdibon、位置データの分析のStreetLight Dataなど。小売、流通、運輸のほか、金融や医療など幅広い分野でこのようなデータの解析が行われ、それを行うことをビジネスとする企業が登場しているのです。
また、AIを利用した新たなソリューションも多く生まれています。AppleのSiriやAmazonのAlexaなど音声によるパーソナルアシスタント。Alexaを搭載したスピーカー型音声アシスタント「Amazon Echo」はスマートホーム用のデバイスとして大きな話題となっています。シェアリングエコノミーの代表企業であるAirbnbは宿泊需要の予測ツール Pricing Tipsを提供しています。Pricing Tipsでは、季節や近隣でのイベント情報などを元に、設定した宿泊価格に対しどのくらいの可能性で予約が入るかAIを用いて予測します。ほかにもシェアリングエコノミーの分野では、UberがuberPOOLという相乗りサービスを提供しています。uberPOOLは、料金を低価格で抑えるため、同じ方向に向かう人たちを相乗りさせるサービスで、AIにより瞬時に最適な経路を探索し配車していきます。さらに、GoogleフォトやFacebookなどの画像認識機能にもAIは利用されています。
このように、今後もありとあらゆる分野でAIの活用が見込まれ、それに対する投資も人も継続的に流れ込むことが各方面で予想されています。
AIの発展とともに増すセキュリティの重要性
AIの発展はセキュリティ分野でも注目されています。例えば、金融分野では口座へのアクセス状況から普段との変化をAIにより判断して警告を発するシステムが導入されつつあります。防犯の分野においては、単に画像解析することで映像を鮮明にするだけにとどまらず、対象物の動きを AIにより解析して不審者なのかそうでないかを判断するシステムが登場しています。今まで人の目で確認して判断していたことが、高精度に自動的に判断できるようになっています。
逆に、AI技術の発展に伴い、IoTの普及が進みネットへの出入り口が一気に増えることとなりました。これに伴い、個々のIoTデバイスでは今まで以上にセキュリティに対して注意する必要が出てきています。また、増えすぎたデバイスを人の手だけでは監視することが困難になるため、AIを活用したセキュリティ技術が今後注目されていくと考えられます。
平氏は「単純なソフトやデバイス開発はシリコンバレーでは縮小傾向にある。特殊なセンサーや半導体を作るメーカーは残るが限られている。より高度なものをやるためには、AIはなくてはならない。IoTからどう集めて、どういう風にAIでアナリシスするかが重要になってくる」といいます。コンピュータが生まれた時代から研究が続けられているAIの技術は今大きな変化の時期を迎えているといえます。今後もさまざまな分野で利用されていくことが予想され、引き続き注目していく必要がありそうです。
平 強氏のブログ、「挑戦せよ。」は<こちら>