かつて世界ナンバーワンといわれた日本の半導体業界。今では台湾や韓国といった新たな勢力が世界のシェアを占めるなか、日本においては次々と大手が事業撤退、設備投資も減少を続け、東芝ショックなどもあり、衰退し続けています。日本の半導体業界はなぜ衰退したのか、今後どのようにしていくべきなのかなど、元技術者であり、エンジェル投資家として長年シリコンバレーに関わり、ノバテック株式会社の取締役でもある平強氏に話をお聞きしました。
平氏は「80年代、ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれ、凄いテクノロジーがあって大きく飛躍したが、日本の半導体戦略が間違っていたし、マネジメントもよくなかった」といいます。
80年代の飛躍から、90年代の衰退。市場要求の変化と企業体質の問題
1940年代後半にアメリカでトランジスタが発明され、1950年代中頃は日本から多くのトランジスタラジオが輸出されました。1956年にはパロアルトにWilliam ShockleyによりShockley半導体研究所が設立され、その後サンタクララ周辺はシリコンバレーと呼ばれるようになります。1960年代に入り日本製のトランジスタ、ICはその品質の高さから世界で認められ、カラーテレビや電卓、時計など多くの民生機器に使用されて躍進。1970年代に入ると、4ビット、8ビットのMPUが登場し、日本でもMPU開発が進み世界でのシェアを伸ばしていきます。1980年代に入ると、携帯電話やテレビゲーム、ビデオやCDといったデジタル機器が登場し、コンピュータの市場も伸びてきます。コンピュータ産業の発展とともにDRAMの需要が急速に拡大し、品質で高い評価を受けていた日本製のDRAMが米国のコンピュータ産業で採用されるようになります。そして、80年代の中頃を過ぎると、日本製のDRAMは世界シェアで80%をも占めるようになり大躍進を遂げます。ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた時代です。
1990年代は、PCの高性能化やWindows95の登場などにより、OA化が加速。それに伴い、モニタ、プリンタ等の周辺機器の需要が伸び、半導体の需要も大きく伸びることとなりました。しかし、1986年に日米間で締結された日米半導体協定による圧力や、バブル景気の崩壊など、日本の半導体業界をとりまく環境が厳しさを増します。さらに、韓国や台湾といったアジアの半導体メーカーの半導体市場参入があり、1993年には世界の半導体シェアでアメリカが1位に返り咲き、日本は2位に転落します。この頃は、PCの需要の高まりによりIntelなどMPU を中心としたメーカーが大躍進し世界で大きくシェアを伸ばしていました。メモリも需要が増大していましたが、アジアメーカーの市場参入により低価格化が進行。付加価値の高いMPUメーカーが躍進することとなったのです。「半導体のメインストリームがメモリからMPUに移り変わりIntelが大きくなった。メモリばかりやっていたのでIntelに抜かれて日本の半導体業界が落ちていった」と平氏はいいます。
重ねて平氏は「いまひとつ、日本の企業の体質もよくなかった。人を活かしていない。経営者が保身にはしり、毎年利益をあげろとプレッシャーをかける。武士の時代から長く続いてきた原理原則で、日本型経営の上下関係では上のいうことは拒否できないという雰囲気が出てきている。新しいことをやろう、改革を進めようとしていた人が全部潰されてしまった。イエスマンのみ残っている。日本の半導体が衰退する理由は人を活かせなかった、半導体ビジネスの経営をちゃんとできる人がいなかったからだ」ともいいます。戦後の大きな経済発展で作り上げてきた日本企業の体質が逆の方向に作用してしまう結果となり、日本の半導体業界は今に至っているのです。
企業体質の改善。新しい風を送る
平氏は「日本の企業の本質的な大きな問題は出る杭が現れないということ。トップを大きく変える必要がある。日産が甦ったのと同じように、海外から新しい風を入れるぐらいのことをしなくては何も変わらない」と、日本の半導体業界が生き残るには、企業体質を大きく変える必要があると訴えます。加えて「日本国内の人材では、古くからの慣習を受け続けているので今の状況を変えることは難しいだろう。違う世界から人を入れなければ変わらない。例えば、Western Digitalとかアメリカの半導体企業に日本の資本を残して売却するなどしてトップを変えなくては駄目だ」と平氏はいいます。
スマートフォンの普及やIoT技術の発展など、新しいデジタルデバイスの登場により半導体の需要自体は今も大きく伸びています。しかし、世界における日本の半導体のシェアは既に10%を切るまでとなりました。大手企業の撤退や、新規設備導入の規模縮小など、日本の半導体業界の衰退は今もなお続いています。このまま進めば日本の半導体業界は回復できないほど落ち込むことが予想され、根本から構造を見直すとともに、企業の体質を大きく変える対策を行うことが早急に望まれます。
平 強氏のブログ、「挑戦せよ。」は<こちら>